第2章 (のぞみ)



 4人は大学の中へと入っていく。希は克也と前を歩く。その後を怜と千景が追う。
 歩く速さの差で、大体はこの組み合わせとなる。
「夕方にもなると静かだねぇ、大学って。人影もないし、ひっそりしてるし…」
「それが普通なんじゃねぇの? 変に騒々しい方が不気味だろ」
 希は克也の方をちらっと見た後、
「そうかもしれないけど」
 とそっけなく言った。
 それからしばらくの沈黙がおとずれる。黙っている時ほど暗く重たい空気はない。
 1度はぁと大きく息を出す。やってみたところでさほど変わらないのに、こういう時はいつもやってしまう。今度は横で克也がはぁと息を出した。
 みんな案外やるんだなぁ〜、と安心して軽く笑ってしまう。それに克也が反応する。
「何?」
「ううん。克也くんもそうやるんだなぁと思って」
 会話が出来てホッとする。でも克也は、
「ふ〜ん」
 と言うだけだった。
 またおとずれる暗く重たい空気。2人の足音がやけに大きく聞こえる。静寂の中に響く音。後ろの2人の会話はだいぶ遠い。希が立ち止まって振り返ると、克也もつられて振り返った。
「お前ら、早く来いよ」
 と克也が大声で2人を呼ぶと、怜から、
「あなた達が速いんですよ。僕は普通ですよ。そんなに急がなくても…」
 という言葉が返ってきた。怜らしい、と思う。
 3度目の沈黙。希は山の端の赤い太陽を見た。昼間のようなまぶしさのない太陽。今日はいつものようなもの優しい赤じゃなく、燃えるような赤。希はさっきから気になっていたことを訊いてみることにした。
「…ねぇ、尚美ちゃん置いてきちゃっていいの?」
「…あんだけ待ったんだからいいだろ。今日は来ねぇつもりなんじゃねぇの」
 そう言いながら、2人は校舎に入っていく。薄暗い廊下の奥の方で、非常口の緑のランプだけがともっていて、異彩な色彩をかもし出している。
「でももし来てたら…、女の子1人で入って来ないよねぇ」
「…そんなこと言ってたら、何も出来ないまま終わっちまうだろ」
 希はまた克也の方をちらっと見た後、
「克也くん、今日無愛想…」
 希は思わず突っ立った。
「どうした?」
 希は1つ深呼吸をしてから言った。
「…あそこ…廊下の突き当たりだから、資料室だよねぇ。…少しドア開いてる…」
 お互い顔を見合わす。そして2人で駆け寄る。そばまで。それからゆっくりドアを開け、恐る恐る入っていく。狭い部屋がいつもよりはるかに広く感じる。
一歩ごとに冷え冷えとした床の感触が伝わってきて、背中を冷たいものが駆け抜ける。

 あっ。

 息をのんだ。そこには人影があった。倒れている尚美が……。
「お前ら、ちょっと来い!」
 克也があの2人に向かって叫んでいる。希はそっと尚美の背中に手を当て、声をかけてみる。
「尚美ちゃん、ねぇ分かる?尚美ちゃん!ねぇってば!…」
 怜と千景も少し離れたところで立ち止まって、呆然としている。 「死んでる?」  死んでる…? その言葉が胸の中で何回も響いている。希は尚美の背中に乗せた手をそっと離し、そのまま床に座り込んでしまった。今目の当たりにしている現実が信じられない。何とも言えない驚愕感。言葉も出てこない。静寂の中で鼓動と荒い息だけがむなしく響く。
「とりあえず、救急車呼んでくる!」
 そう言って希は駆け出していた。あの驚愕感から逃げ出したかった。

 公衆電話は遠い。ハァハァ言いながらダイヤルを押す。相手が出るなり希は受話器に向かって叫んでいた。
「あ、あの…」
 でもうまく言葉にならない。
「救急車、お願いします! …え、場所、ですか?えっと…」
 ずっと逃げるわけにもいかず、今の道のりを戻る。辺りは暗くなってきていて、怖さにプラスされていた。希は思わず両手をぎゅっと握った。その手がかすかに汗ばんでいる。
「ちょっと、君…」
 急に呼ばれて思わず立ち止まった。鼓動が速まっているのが、自分でもよく分かる。振り返ると見慣れた顔があったので、少しホッとした。
「教授…」
 校舎の端では怜と克也がケータイで話していた。怜は警察に、克也は別の教授に…。
 まだ終わりそうにない…。

 教授はもう1度見てくるように言った。そして状況をもっと詳しく説明しろ、と。
 でも1人で行くのは…。その時、千景の姿が見えた。
 2人なら多分、大丈夫…。
 千景と廊下を歩いていく、無言で。部屋の前で1度立ち止まり、気合いを入れて中に入った。
 あっ。
 また息をのんだ。そしてしばらく、ただ呆然とそこに立ち尽くしていた。
 尚美が、いない…。さっきまでいた尚美が。
 一体、どういうこと…!?
 黙りこくっている2人の背後から、サイレンが迫ってきている。


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